〜ここに彼らがいたから〜

久留米でのレコーディングもついに最終日。昨夜の雨は寝ている間に上がっていた。それでも外はまだ薄曇り。
今日はラスト1曲のレコーディングに加え、プロモーションビデオとジャケットの撮影も控えている。昨日の快進撃がなければ、ちと苦しいスケジュールだったかもしれない。
アルバムに収録される曲は、トラヴェラーズのカバーである「Black Cloud」を除き、今回のため書き下ろされたものばかり。例外はアルバム表題曲となった「RUBBER TOWN」。これは以前、別プロジェクト用に書かれた曲なのだが、運悪く日の目を見ること叶わずストックされていた。
この曲の出来映えに手応えを感じていた尚之さんは、いつの日かチャンスが巡ってきたら世に出したい、そう思っていたという。もとはサックスがメロディーを受け持つインスト曲。それが今回、晴れてヴォーカル曲となり生まれ変わった。

心配していた歌詞はすでに届いており、大サビを唄抜きのカラオケでレコーディングするという、最悪の事態は回避された。なぜここまで追い込まれたのか、それにはちょっとしたワケがある。その顛末を説明しておこう。
実は何日も前に歌詞は届いていた。しかし尚之さんから詞の内容についてあるリクエストがあり、全面的な書き直しを小鹿さん(作詞家)にお願いしていたのだ。
これはとても珍しい出来事。ちょっとした語尾の言い回しなどはさておき、内容について尚之さんが意見することなどこれまでは皆無であった(注1)。チェッカーズからF-BLOODにいたるまで「詞は兄、曲は弟」という暗黙の図式により、「歌詞に対してはノータッチ」というスタイルが藤井尚之の中に形成されたと思われる(私の勝手な推測だが)。
その弟が出来上がってきた歌詞を見て「書き直してほしい」と言った。この曲には当人だけが知る何か特別な思いがあるのだろう。それは曲タイトルを「RUBBER TOWN」へと変えたことからも窺い知れる(注2)。

いよいよ最後のレコーディング。
ヴォーカルマイクはM4で使ったaudio-technica AT4050を再度用意。指向性の広いコンデンサーマイクの使用が奏功し、ちょうどいい具合のカブリ音が得られた。特に武田弟さんのサックスがその恩恵を受け、プレイの力加減、それによって変化する音色は美しい。
末房さんはマレットを持ち、ミュートしたタムをポコポコ叩きながらシンバルを織り交ぜたプレイ。大サビ後のブレイクで、マレットからスティックへと持ち替える。注意して聴くとマレットを置いたときの「カタッ」という音が、余韻の中で聴こえるハズだ。ノイズマニアの方はヘッドフォンで聴いてみるのもいいだろう。
初見の歌詞ということで、唄い回しを確認しながらユルユルと進むレコーディングも、テイク4あたりから急にギアを入れ替えていく。ヴォーカルのリズムは滑らかになり、サウンドに一体感が出始めた。もういつOKテイクが生まれてもおかしくはない。デリケートな曲ということもあり、イントロのサックスが始まってからエンディングの余韻が消えるまでの約5分、身動きするのも憚られるような緊張が続く。
そんな中、唄っている尚之さんのすぐ脇をすり抜けゴミを捨てにいくH氏を目撃したり、撮影のため来ていた女性陣が後ろで爆笑しながら会話していたり、、。ノイズには寛容な私も肝を冷やす場面が何度かあった(注3)。
そんないくつかの山を乗り越え、7テイク目でOKを掴み取る。これでアルバム全14曲、緑音完了。あとはデータのバックアップだ。
バンドメンは休む間もなく衣装に着替え、プロモ撮影が始まる。曲は「ロンリー・シガー」と「Do You Have A Room」。それが終わると次はジャケット撮影へ。

オイリーズカフェ前の道路で、歩行者や自転車と共に行われた撮影もつつがなく終了。これで久留米での仕事はコンプリート。盛大なバラシをしてお世話になったオイリーズカフェを後にする。やはり名残惜しい。
打ち上げはお馴染みの「やきとり天神」で。ここへは5日間のレコーディング中、4日通うというヘビーローテーションであった。
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このところ時間の経過が早くなった(注4)、そう感じる人は少なくないだろう。ヒトの生物学的な寿命に反比例して、世の中のサイクルは日に日に短くなってゆく。次々とアップデートされていく出来事を追いかけているだけで、ココロに留めておくヒマもない。
アルバム表題曲「RUBBER TOWN」、これについていた仮タイトルは「lejende」という。10年20年後、このアルバムは人々のココロにどう刻まれていることだろう。レジェンドとまではいかなくとも、時の試練に耐え抜いていてほしい。
何処かで誰かがこのアルバムを聴くことで、パッケージされたオイリーズカフェでの5日間、その空気が解き放たれる。それがずっと先の未来でも繰り返されていることを切に願い、長々と続けてきたレポートを締めくくる。
ひとりでも多くの人に「RUBBER TOWN」が愛されますように。末永く。
おわり。
(注1)長年にわたり藤井兄弟のディレクターをしている倉中さんがそう言っていたので間違いないだろう。
(注2)「RUBBER TOWN」とはゴムの町「久留米」を意味している。ちなみに作者の小鹿さんがつけていたタイトルは、、、ここでは教えない。
(注3)ノンフィクションだがオーバーに言っているので、関係者各位、ヘソを曲げることのなきよう。
(注4)小学生の我が娘ですらそんなことをつぶやくのだから、、いよいよ世も末である。